独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 と、名前については若干コンプレックスに思っているが、一種の記号だと思って開き直るしかない。

 男ばかりでデリカシーのかけらもない家族と暮らしているので、おそらくこの先も私が名前に見合うような女性になることはないだろう。

「ただいま」

 無愛想に言いながら、自宅の古い引き戸を開けた。

 同じ品川区内でも、病院のある地域は山の手とよばれるお金持ちの住むエリアであるが、我が家は町工場や商店街がザ・下町を感じさせるエリアにあり、通勤はぎりぎり徒歩圏内。

 便利とは言えないが、帰ってシャワーを浴び黙々と勉強して寝るだけだからまぁいいか、という感じ。

 ただし実家なので、やかましい家族が約三名、同居しているのだけれど。

 案の定、居間には明かりが点いていて、彼ら三人はテレビの前に並んで、ドラマに見入っていた。

 左から、白髪頭が祖父、黒に金のメッシュが入ったマッシュヘアが弟の(はやて)、後ろからはわからないが、少々おでこが後退してきた残念な髪型が父である。

「いいなぁ、この女優さん……一回いくらでワシと遊んでくれるかなぁ」
「じーちゃん……たぶん、全財産差し出しても〝こんのエロジジィ!〟ってビンタされて終わりだよ」

 にやけ顔でしょーもないことを呟いた祖父に、颯がげんなりした顔で突っ込む。するとその反対側にいる父が、颯の肩をバシバシ叩いて自分の顔を指さす。

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