独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 ――トクン。強い決意の滲んだ彼の言葉に、心が優しく揺れる。

 これが……恋、なの? 勉強と仕事しかしてこなかった二十八年間で、初めての感情だ。だけど、自覚したところでいったいどうすればいいのか……。

 いっぱいいっぱいで返事ができないまま、困ったように彼を見つめ返したその時だ。

〝ぐうううう〟

 私の腹の虫が盛大に、緊張感のない音を立てた。

 な、なんでこんなタイミングで――!

 小田切先生は途端にクスクス笑いだし、「胸はいっぱいでも、胃はそうじゃないみたいだね」と言って、私の体を起こしてくれた。

「頭を働かせるためにも、まずは腹ごしらえだ」

 恋だの結婚だのの甘い話は一旦脇に置き、彼はスマホで料理を注文し始める。

 見慣れているはずのその横顔が、なぜだか輝いているようにまぶしく見えて戸惑う。

 恋ってやつは、視力までおかしくするわけ……?

 誰にともなく胸の内で問いかけながら、私はそれでも彼から目をそらせないのだった。


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