独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
そんな他愛のない話をしているとつい本来の目的を忘れそうになり、慌てて彼に尋ねた。
『先生、そんなことより約束の〝オペの極意〟早く教えてください』
天才と呼ばれる彼のことだ。きっとなにか他の医師が知らないオペのコツみたいなものを知っているに違いない。私はそう思って、真剣に耳を傾けていたのに。
『ああ、オペの極意? ……まぁ結局は、ひたすら、やる。それだけかな』
それだけ……って、いやいや、私、なにか深い話があるとばかり思って、それを聞きたくて泊まることにしたのに!?
あまりにあっさりした答えに納得できず、私は食い下がる。
『小田切先生だけの、秘密のテクニックとかないんですか?』
『ないよそんなの。オペは練習と実践あるのみ。ま、愛花先生にはわざわざ言わなくてもわかってる話だったかもね』
無邪気に微笑みかけられるが、どうも腑に落ちない私は、少し考えてハッとした。
『……まさか、私を泊まらせるためにありもしない〝オペの極意〟なんて話を?』
『さぁ。どうかな』
小田切先生はとぼけていたけれど、私は絶対わざとだと確信した。
無性に腹が立ってきて、『もう寝ます!』と立ち上がり、勝手に寝室に入ると大きなベッドにダイブ。仕事の疲れと、小田切先生に振り回された疲れとで、私は間もなく眠りに落ちたのだった。