独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
どう見ても紛れもない、婚姻届だ。ネットでダウンロードできるとは驚いた。
私はそこに並んだ、小田切先生の、男性にしては少々丸っこい筆跡で書かれた【小田切純也】という文字をジッと眺める。
この隣に、私の名前を書くんだ……。改めてそう考えると、妙に緊張した。
婚姻届の記入も、家族への挨拶と同じく淡々とこなせるひとつのタスクであるはずだったのに……なんだか変に気負ってしまう。原因は言うまでもなく、小田切先生だ。
『初恋も、キスも、その先も……全部、俺が教える。だから、結婚を考え直すなんて言わないで? たとえ最初は契約上の関係だとしても、いつか本物にしてみせるから』
この婚姻届に、彼の真剣な想いが乗っていると思ったら、簡単にサインなんて……。
婚姻届を見つめたまま黙り込んでいると、小田切先生は私の心の迷いを見透かしたかのように言った。
「別に、この紙きれ一枚に名前を書いてもらったからって、愛花先生の心まで全部手に入るとは思ってないよ。だからそんなにプレッシャー感じないで?」
「でも……」
「ほら、悩んでたら遅刻する」