独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
小田切先生は私の手を握ってベッドから立たせると、デスクの椅子を引いて私をそこに座らせ、強引にペンを持たせた。
不安になって背後に立つ彼を見上げると、「大丈夫だから」と優しく諭される。
再度婚姻届に視線を落とした私は、大きく息を吸って、心を決めた。
「では……書きます」
小田切先生に見守られながら、私は注意深くペンを走らせた。カルテやオペ記録を書くときとはまた違う独特の緊張感に包まれたが、ひと文字ひと文字、丁寧に書き上げる。
ゆっくり全体を見直し、私は彼の方を振り返った。
「できました」
「……うん。やっぱりいいね。気が早いけど、夫婦になったって感じがする」
感慨深げに言う彼を見ていたら、胸がむずむずくすぐったくて、つい目をそらした。
夫婦になったって感じ……か。まだ実感がないけれど、いったいどんな結婚生活を送ることになるんだろう?
不安と期待と、それから二十八年間の人生で初めて初めて芽生えた甘い感情が入り乱れ、私の胸はかつてないほど騒がしかった。