独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「おはよ」
「……おはようございます」
翌朝、先に出勤した愛花先生と医局で顔を合わせると、彼女は挨拶こそしてくれたものの、あからさまに俺の目を見ようとしなかった。
なにもなかったとはいえ、朝帰りだもんな。真面目で初心な愛花先生のことだから、気まずく思うのも無理はない。
しかし、その経験値の低さでよく結婚を申し込んできたものだ。今となっては、相手が俺でよかった……と思うけど。
パソコンで電子カルテを開きながらぼんやりそんなことを思っていると、背後で蓮見先生が彼女に声を掛けていた。
「あれ? 愛花先生、シャンプー変えた?」
「えっ!? ……いえ別に」
「そう? なんかいつもと香りが違う気がするんだけど……」
「気のせいですっ!」
ムキになって否定する彼女がおかしくてつい口元を緩ませつつ、蓮見先生の言動が若干不愉快でもあった。
女好きを公言している彼のことなので、女性の些細な変化に気づくのは珍しいわけではないのだが、その矛先が愛花先生となると、内心穏やかではない。