独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「……なんで」
脳外の医局に入ると、自分のデスクにたくさんの資料や書籍を広げ、その上に突っ伏して眠る愛花先生の姿があった。
ゆっくり彼女のデスクに近づいて、乱雑に広げられた資料のひとつに目を留める。
どうやら、頭蓋底……頭の深い部分に生じた髄膜種の摘出術を記したもののようだ。
そういえば、今週入院してきた若い女性患者が、これに似た所見で、オペを希望しているんだったな。
オペには複雑な技術が必要なため、執刀医は蓮見先生で、彼女は第一助手。それで、入念に下調べをしていたのだろう。相変わらず勉強熱心だな……。
ひたむきな彼女の姿には、今のように親しくなる前から、常にいい刺激をもらっていた気がする。
俺も医者になりたてのころはああだったなって、初心を取り戻させてもらったり。負けてられないなって、奮い立たせてもらったり。
恋愛感情ではなかったにしろ、ずっと彼女に好感は持っていたのだ。人としても医者としても。
契約結婚の話はただのきっかけで、好きになるべくして、なったのだろう。
恋愛なんて面倒だと思っていたはずなのに、今はこうして彼女のそばにいるだけで、胸がときめく。
こんな気持ちになるのは、大人になってから初めてではないだろうか。