独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「おはよ。……これ、愛花先生が掛けてくれた?」
ブランケットを持ち上げて尋ねると、彼女はパッと視線を逸らす。
「……小田切先生に風邪を引かれたら、患者さんが困るので」
素直に「そうです」とは決して言わない彼女がいじらしくて、胸がきゅっとつねられる。
「このコーヒーは?」
「べ、別に深い意味はありません。自分のを淹れるついでです」
早口で言いながら、自分のカップに口をつける愛花先生。その頬は、みるみるうちに赤く染まった。
……なんてわかりやすくて愛おしい嘘だろう。
心の底からあたたかな気持ちが湧いて、俺は自然と微笑んでいた。
「ありがとう」
「……いえ」
ふたりきりの医局に、ふわふわと流れる穏やかな空気。
早起きは三文の徳って本当だな、としみじみ幸せを噛みしめながら、彼女の淹れてくれたコーヒーに口をつけた。
「そういえば、愛花先生って今日出勤じゃないでしょ? なんでここに?」
「……来週のオペの予習です。ちょっと気になる患者さんなので」
「鴨川さん?」
彼女が広げていた資料から予測した名を告げると、彼女は意外な事実を明かす。
「そうです。実は彼女……美波ちゃんは、弟の元恋人で」
「えっ。颯くんの?」
彼女はこくりと頷き、俺の隣のデスクの椅子を引いて座ると、鴨川さんの話を聞かせてくれる。