独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

「彼女、自分の病気のことよく調べていて、完治にはとても難しい手術が必要なこと、手術に伴うリスクについてよく理解したうえで、弟に別れを告げたそうなんです。弟には、もう大切な人を失う悲しみを味わわせたくないからって。でも、弟は理由を知らずに別れだけ言い渡されたから、まだ気持ちの整理がついてないみたいで」

 愛花先生、そして颯くん姉弟は、お母さんとお祖母さんを亡くしている。

 鴨川さんはその時のつらさを思い出させまいと、身を引いたってことか。気持ちはわからないでもないが……。

「でも、蓮見先生のオペなら、信用して大丈夫だろう。万が一腫瘍が全摘できなくても、イコール死ってわけじゃない。残った腫瘍は放射線で小さくするという手もある」
「私も蓮見先生もそれは説明しました。でも彼女、自分のお父さんを、同じ脳腫瘍のオペ中に亡くしているそうなんです。だから、いくら安心だと言われても、なにが起こるかわからないって……」

 なるほど……。そんな経験があるなら、不安になるのも無理はない。

 が、俺たちにも脳外科医のプライドってものがある。そんな簡単に、万が一を起こすような仕事をするつもりはない。それはきっと、蓮見先生も同じだ。

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