独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
未熟な夫婦の新婚初夜です!
土曜に婚姻届を提出し、『善は急げ』という小田切先生の言葉に乗せられ、日曜の午後に荷物をまとめて実家を出ることになった。
家族は私の引っ越しにめちゃくちゃ協力的で、荷造りはあっという間に済んだ。
そして小田切先生が車で迎えに来る直前、颯が私を呼んで、居間の隅にある古い鏡台の前に座らせた。美容室は日曜が忙しいのに、颯はわざわざ休みを取ったのだ。
「どうせふたりとも忙しいから式の予定はないんだろ? だったら、今日がお嫁に行く日ってことで、綺麗にしてやるよ。小田切さんびっくりさせよう」
質感を確かめるように私の髪に指を通しながら、颯がそんなことを言う。
「え? 別に私、いつも通りでいいんだけど……」
「こんな時くらい自分を飾ったっていいじゃん。……本当は姉ちゃん、かわいいもの大好きなんでしょ? 昔のアルバム、ちょっと見たんだ」
しみじみと呟いた弟の言葉に、そんなこと自分でも忘れていたな、と思う。
今では考えられない、少女趣味全開のワンピースやブラウスを毎日のように着ていたのは、幼稚園児の頃。あの頃の私は、女の子らしくいつもニコニコ笑っていたっけ。
「あれはお母さんの趣味だけどね。この愛花って名前も」
とはいえ、私自身もまんざらではなかった。母の選んだ女の子らしい服を着て、『愛花は本当にかわいいね』と褒められるのが、単純にうれしかった。