独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
父はごく一般的なサラリーマンで、私が医学部に通っていた頃は、今のようにのんびりドラマなんか見る暇もなく、学費のために朝から晩まで働いていて。
面と向かって伝えたことはなかったが、本当にありがたいと思っていた。
「嫁入り道具なんて気にしないでよ。私、医学部行かせてもらっただけでも、すごく感謝してるよ……?」
「よかった。そう言ってもらえただけで、父さん報われるよ」
にっこり微笑んだ父の目の端に、一瞬涙が光る。思わずもらい泣きしそうになってしまい、きゅっと唇を噛んだ。それから静かに深呼吸をして、父に笑いかける。
「今まで育ててくれて、ありがとう。体、大事にしてね」
「うん、わかってる。ああ……泣かないでいようと思ったのに、やっぱりダメだ」
くしゃっと顔をゆがめた父が、泣き顔を隠すように私をギュッと抱き寄せる。
こんなに近くに父の温もりを感じるのは、幼い頃以来。懐かしい気持ちと、別れの寂しさとが一気に胸に押し寄せ、私の目にも涙があふれた。
「ふたりとも、そのくらいにしとかないと。姉ちゃんのメイクのノリが悪くなるよ」
涙ぐみながらも、明るい声で颯が言った。祖父もうなずき、付け足すように忠告する。