背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 バーカウンターの席に腰をおろすと、バーテンダーの落ち着いた声に顔を上げた。

 水割りと、軽くつまめるものがカウンターに置かれる。
 グラスを口に運ぶと同時に、スマホが鳴った。


 画面に千佳子の名が光る。悪くはない。

「もしもし」

「ああ、居るよ。分かった」

 千佳子が、これからバーに来るらしい。数か月前に、このバーで声をかけてから、時々会うようになった。付き合おうだ、彼女になっただの言ってこないところが気楽でいい。
 だいたい、千佳子も他に付き合っている男の一人や二人いるだろう。


 数分後、ハイヒールの音と共に、スラーっと長い足が見えた。


「こんばんは」


 あまったるい香水をすりつけるよに、俺の肩に手が伸びてきた。


「ああ」


 千佳子は隣に座ると、ミニスカートから見える長い脚を組んだ。

 長い髪に、はっきりとした目鼻立ち。
 時々一緒に過ごすには申し分ない。


 バーで二、三杯酒を飲み、ホテルに行く。
 いつもの流れになるはずだが……


 何かがおかしい……


 もうすでに、五杯目のカクテルが空になるのだが、千佳子と席を立つきになれない。

 千佳子が俺に触れる頻度が増えてきている。いつもなら、俺自身だって、その気になってくるのに、身体が反応してこない。それどころか、千佳子が俺の腕に触れるたびに、身体が冷めていく気がする。


 なんだこれ? 
 こんな事は始めたてだ……


 夕べやりすぎて、疲れているのだろうか?


 ここまで、その気にさせておいて、なんて断ればいい?


 なぜか、カウンター越しにちらりとバーテンダーを見てしまった。
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