背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
彼女が常務室から出て行くと、耐えられないかのように常務が笑いだした。

「何が可笑しいのですか?」

 俺の声は冷やかだと自分でも思う。


「まあ、そんなに怒るな。湯之原君は、いい子だと思うがな。もたもたしてると、見合いなんて何の意味も持たなくなるぞ」


常務は、にやりとして俺を見た。


「はぁ……」


 いったい何が言いたいんだ。
 見合いに意味が無くなるって、どういう事だ……


「見合いした時点で、お互いなんらかの縁があったって事だろ? 少なくとも、結婚の相手として目の前に現れたんだから。でもな、それはただの出会いの方法の一つに過ぎないのだから、後は本人次第。ほっていおいたら、次から次へと彼女には候補が現れるだろうから。見合いの男なんて、ただの通りすがりの男と同じになってしまうぞ」

 俺の表情を察したかのように言った。

「いや、俺は別に……」

 そう答えたものの、常務の言葉になんだか胸がざわつき出した。


 そんな状況ではあったが、仕事の話はスムーズに進み、契約にまでこぎつけた。

 常務室から出ると、彼女が受付に居ると思うだけで、どう行動すべきか考えてしまう。

 声をかけていいものなのか?



 役員専用の受付けに、緊張しながらたどり着いたのだが、

 彼女の姿は無かった……


 俺を避けたのだろうか?


 別の女性が、俺に挨拶をしてくれているようだが、どう返したのかわからない……


 仕方なくエレベーターに乗り、一階のロビーへと向かった。



 エレベーターのドアが開いた瞬間、目の前にに飛び込んで来たのは、彼女の頭を下げる姿だった。
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