背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 俺は、その場を通り過ぎる事が出来す、スマホで調べものをする振りをして、柱の陰に身を寄せた。

 彼女のピシッと胸を張った凛々しい態度は、始めてみた見合いの時の印象そのものだった。仕事の出来るしっかりとした女性。そう、高嶺の花とも言っても過言ではない。


 彼女の仕事ぶりを見ていると同時に、ソファーで缶ビール片手に寝ころび、大笑いしている姿が被さってきた。

 いったい本当の彼女はどこにあるのだろうか?


 そう思うと、今度は彼女の甘く熱を帯びた顔までが蘇ってきて、身体がびくっと反応する。

 やばい……


 彼女の対応している客が帰ったら、俺も出て行こうと思ったのに、いつの間にか彼女の横には別の男が一緒に頭を下げていた。


 そんな事、どうって事はない。
 仕事の相手だ、横に並ぶ奴ぐらい、いくらでもいるだろう……

 だけど……

 だけど、彼女はその男をちらりと睨み、その後、目を合わせて笑ったのだ。
 なんだよこれ!

 しかも、彼女の整った笑顔は、正直綺麗だ…… 

 俺は、たまらず彼女達に向かって歩き出した。


 彼女と目が合った。俺は軽く頭を下げ、何事も無かったように通り過ぎるつもりだったが、気付けば、その男をものすごい勢いで睨んでいた。


 何やってんだ俺は……

 睨んでどうするんだ……

 大人気ない……


 ビルから出ると、真っすぐ駐車場へ向かった。


 車に飛び込むと、ハンドルに突っ伏した。


 情けない……
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