背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 パパの運転する車の後部座席に座っている。

「持ち出せなかった物は、買い足せばいいじゃない」

 ママが私のご機嫌を伺うように言った。


 私の席の横には、大きなスーツケースが二つ乗ってる。これじゃ、まるで夜逃げだ。


 当然、おじい様の家に行くのだと思っていたのだが、どうも道が違う……


「ねえ、おじい様の家じゃないの?」


「そうしようと思っていたんだが、来週、毎年恒例の記念パーティーがあるだろ? その準備で父さんの家もバタバタしているからな」


 パパがハンドルを握ったまま言った。


「じゃあ、どこに行くのよ」


 取り合えず、ホテルでも予約したのだろうか?


「それがね、パパのお友達が、丁度空いているマンションの部屋を貸して下さる事になったのよ。高級マンションらしいわよ」

 助手席にすわるママが嬉しそうに、ちらりと私の方へ振り向いた。


「そうなんだ。どこでもいいけど、会社が遠くなるのは嫌よ」


「それなら大丈夫よ、今より近いんじゃないかしら?」


「ふーん。それならいいけど……」

 おじい様の家は正直、通勤には不便だ。近いなら有難いが……

 全く、なんて事だ……
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