背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「まあまあ、おかけ下さい」


 愛想よく声をかけてくるおじさんの横に、目を見開いたままの彼が座っていた。

 とてもソファーに座れる状況なんかじゃない。
一体どういう事なのだ?


「どうして彼女が?」


 私より早く、彼が口を開いた。


「すまんな、急な事だったもんで報告が後になってしまって。湯之原さんのお宅が、改修工事をする事になってな。美月さんに空いてる部屋をお貸ししたらどうかと思ってな」


「ええーーーつ」


「ちょっと美月、何その声は、失礼でしょ!」


 母が横で睨んだがそれどころじゃない。
 誰がどう考えたっておかしいでしょ!


 見合いした男のマンションに家族そろって居候なんて、聞いた事もない。
 この人達は、バカなんだろうか?


 ママとパパはソファーに座り、彼の両親と何やら楽しげに話をしているが、内容は全く頭に入ってこない。


 彼と言えば、さっきから一言も発せず、茫然と座ったままだ。彼も、この事態を把握するのに時間がかかっているのだろうか?

 私だって、ソファーの横に立ち尽くしたままのだから。


 こういう時は、どうするのが正しいのか? 
 とにかく冷静に、一般常識を伝えるしかない。


「あの」

「あの」


 意を決して声を上げたのは、彼と同時だった。
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