背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「あら、ごめんなさいね。話に夢中になっちゃって、お腹空いたわよね。食事にしましょうか? 市場から新鮮なお魚やお野菜を買ってきたのよ」

 彼の母が、立ち上がった。

 そうじゃない、お願いだから話をさせて。


「あの」

「あの」


 もう一度声を上げたら、また、彼と被ってしまった。


 また、言葉を続けるタイミングを失い、もたもたしているとパパに先を越された。


「それが、私が急に大坂に出張になってしまいまして。しばらく、娘だけをお願いしようと思ってます」


 なんですとー!


 パパの言葉に、立ち眩みがした。



「おお、それは大変な事ですなぁ!」

 彼の父が、大袈裟に驚いた。



「ええ、長期になりそうなので、私も同行しようと思いまして。娘は、仕事もありますし、一人でホテル暮らしというのも心配ですし、助かります。」


 ママも、眉間に皺をよせ、心配をアピールしている。


 ホテルで結構! と叫びたい。


 待て、待て、どういう事だ?
 このマンションの部屋に、この彼と同居しろと言う事なのか?


 絶対、嫌だ!


 私は、そっと後ずさりしながら、出口へ向かう事を決めた。


「そういうわけでして、私どもはそろそろお暇させて頂きます」


 パパが立ち上がると、ママも合わせて立ち上がった。


 
「そうですか、一緒にご夕食をと思っておりましたのに……」

 彼の母が残念そうに、パパとママへ目を向けた。
 その目が、私の方へと向きを変えた。


「あら、美月さんそんな入り口で。遠慮しないでおかけになって」


 彼の母が、優しげにほほ笑む。

 いやいや、そんな笑みに流されるわけにはいかない。
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