背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 整った顔立ちに、どことなく冷やかにも見える彼の目は正直綺麗だ。

 当たり前だが彼の目からは何も読み取る事は出来ない。
 彼だって、私に帰って欲しいと思っているはずだ。
 なんとも、もどかしい気持ちが広がってくる。
 彼から目を逸らす事が出来ず、自分が何を訴えたいのかも分からなくなっていた。


「ねえ、あなた。もう一つの買い物袋、車から下ろしてないんじゃない?」

 彼の母の声に、彼の目から視線をそらした。


「おおそうか?」

彼の父が、いそいそと玄関へと向かって行った。


「もうびっくり、まだ新品のプライパンと鍋よ。あとは何もないわ」

 本当に何もない綺麗なキッチンを、彼の母と一緒に見渡す。
 全く生活感のないキッチン。良く見てみれば、キッチンだけでなく、部屋全体に生活感が全くない。ここで、本当に暮らしているかと疑いたくなる。


「さあ、何から始めましょうか?」


 彼の母が、食材を眺めて言った。

 ぼーっとしていてもしょうがいない、せっかく美味しい食材があるのだ、さっさと食事にして、食べたらとっとと帰ろう。


「私、煮つけをしますね」


 私は、キッチンに立ち袖をめくりあげると、シンクの蛇口を上げて手を洗った。


「それじゃあ、ご飯を炊くわね」

 彼の母も、手を洗い始めた。


「おお、これで全部か?」


 彼の父が、大きな買い物袋を両手に下げ入ってきた。袋の中には、調味料や紙の皿やらコップなどが入っている。


「美月さん、ごめんなさいね。こんなものしかなくて、今日のところはなんとかるかしら?」


 彼の母が、申し訳なさそうに、買い物袋の中身をテーブルに広げた。


「ええ。あるものでやりましょう……」


 最低限の調味料は買ってきてくれたみたいだ。
 どうにでもなる。
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