背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 私は深めのフライパンに煮汁を作りカレイを入れる。フライパンでないと一つしかない鍋ではどうにもならない。そのついでに鍋に湯を沸かし、千切りにしたニンジンとホウレンソウを茹でる。
 その間に、グリルでナスを焼く。コンロが開けば、アサリの澄まし汁の準備をし、マグロの刺身を切って盛り付ける。イカは私の大好きな丸焼きにし、醤油とショウガで味付けをする。


 途中で気づいたが、彼の母はあまり料理に手を出して来ない。ショウガをすり下ろすだけも時間がかかるし、焼きナスに関しては見守るだけだ。
 手も出して来ないが、口も出さないので自分のペースで出来て助かるが……

 そんな様子を彼がじっと見ていた事など気づかず、料理に集中してしまっていた。


 ご飯が炊ける間に、ほぼ料理は出来上がりテーブルに並ぶ。


「こりゃ、凄いな。料亭並みだぞ……」

 彼の父が、大袈裟に声を上げてテーブルの前に立った。


「とんでもない。せいぜい居酒屋ですよ」


 そう言って、彼の父と笑った。

「さあ、いただきましょう。悠麻も早く」


 ご飯茶碗も無く、全てプラスチックや紙の器で味気ないが仕方ない。


「これがなきゃな」

 彼の父が、冷蔵庫からビールの缶を出した。咄嗟に目線が行ってしまった。

 私も飲みたい…… 


「美月さんもどうだね?」


 彼の父が缶を軽く上げた。


「いえいえ。私は結構です」


 微笑み返す。
 ここで飲むわけには行かない。食事が済んだら、ホテル探しをしなければならないのだから。


「まあまあ、一本くらいいいんじゃないか? なあ、悠麻?」


「あ、ああ……」


 彼も、立ち上がってテーブルに向かって歩いてきた。

 彼が何を考えているのかは、全くわからない。
 でも、私が飲むことは望んではいない。そんな気がする……
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