背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「さあ、美月さんもお座りになって」

 彼の母の言葉に、席に着く事にした。


「うわっ…… すげっ……」

 彼が、小さな声をぼそっと上げた。


「でしょ?」
「だろ?」

 彼の母と父が、声をそろえて言った。


 悪い気はしないが、わずか三十分ほどで作った、たいして手の込んだ料理ではない。しかも、用意された調味料で作った、味の保証もない。


「あっ…… 簡単なものばかりなので……」

 思わず声が小さくなってしまう……


「さあ。頂きましょう」


 四人が揃ってテーブルに座る。
 なんかおかしな気もするが、今はお腹が空いいてどうにもならない。とりあえず食べよう。



 彼の父、彼、私は、プシュッと缶ビールの蓋を開けた。


 ああっー
 条件反射で開けてしまったよー


 一本だけならいいか?
 喉を通るビールが旨い!


「いただきます」


 うん。さすがに鮮度がいい。お刺身も美味しい。それに、イカの丸焼きショウガたれは、たまらん。


「旨い……」


 その声は、イカを口に入れた彼の声だった。

 胸の中が、嬉しいと言った。なにこれ?


「本当に旨いな!」

「そうなのよ、美月さんの全部手料理よ。びっくりしちゃった。私、あんまりお料理好きじゃないのよね」


「えっ? そうなんですか?」

 思わず彼に母の顔を見てしまった。


「ごめんなさいね。お任せしちゃって。美月さん手早にどんどん出来ちゃうから、おいつかなくて」

 彼の母は、肩をすくめて笑った。


 見る見るまに、お皿は空になって行き、なんだか胸の奥が嬉しい音を奏でた。

 気づけば、彼の父と彼と私は、三本目の缶の蓋を開けていた。
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