背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「いい加減離してくれる?」

 私は、彼から離れようと体に力を入れたが、びくとも動かない。

 彼の顔を見ると、深刻な表情で私を見下ろしていた。
 こんな時だが、いい顔するなあと呑気に思う。
 
 でも、そんな顔に惑わされてる場合ではない。


「彼女達どうするの?」

「ごめん……」

「私に、謝ってどうするのよ?」

 私は呆れて、ふうーとため息を吐いた。


「いや、あんたに謝りたい」

「意味わからない。彼女達の所に戻ったら?」

「どうしてだ?」

「あなたに会う為に、あの店に来たんだと思うけど」


 あの時は、なんだか胸の中がモヤモヤして咄嗟に彼を連れ出してしまったが、全く気分が良くない。

 確かに、彼は見合い相手だ。今夜、あの店で知り合ったわけではない……

 だけど……

 結局、私も彼女達と同じだ。
 彼の夜の相手に過ぎないのだ。

 どうにもならない、悔しさが込み上げてきた。

 しかも、マンションなんて言葉を出すなんて、彼女達が彼との関係をアピールしているのと同じだ。


「俺は今夜、あんたと飲んでいたんだ。彼女達と飲むつもりはない」


「何も分かってないのね。彼女達…… あなたに本気なんだと思うけど……」

 この苛立ちをどう彼に向ければいいのかわからない。
 彼の行動も許せないが、自分自身も情けない……


「そうか?」


 彼は明らかに怪訝になった顔を向けた。


「あなたは、軽いつもりかもしれないけど…… 彼女達、必死だった」

「今まで、そんな素振りは見せてきた事はなかった」

「それは…… あなたに嫌われたたく無かったから我慢してきたんじゃない!」

 別に彼女達の方を持つつもりもない。
 ただ、彼に腹が立って仕方ない。


「だから? 俺にあいつらの所に戻れっての?」


 いきなり腰に回された手に力が入り、身体の向きが変わったかと思うと、彼の唇が重なっていた。
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