背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 背中に回った手に抑えつけられ、身動きがとれない。

「や、やめっ……」


 彼はもう一度、ぎゅっと唇を重ねた。


「ムカつく……」


 彼は、唇が触れる距離のまま言った。


「ムカついてるのは、私よ!」

 本当にムカつく。
 都合のいいように女の人を扱って、平気な顔をして!
 そして、私にキスする。
 大嫌いだ、こういう男が!

 だけど、この腕から抜け出す事が出来ない。


「あんたの言う通り、俺は最低だ。今、分かった……」

「今? 何言ってるのよ?」


「ああ…… 何言ってんだろうな? 俺は、もう彼女達とは合わない。もう、どんな女とも……」


「突然何? そんな事を出来るわけがないでしょ? ていうか私には関係ない!」


「彼女達を見ても、何も思わない、感じないんだよ。俺が、抱きたいのはあんただけだ…… どうしちまったんだろうな?」

 彼の腕の力が抜けたのが分かった。


「へっ? な、何言い出すのよ? 私は、嫌よ。あんたに遊ばれるのなんて!」


「そうだよな…… あんたが、いいって言うまでは手は出さない」


「何よそれ、さっぱり意味が分からない」


「俺にもわからないんだよ……」


 彼は、ふっと私の身体から離れた。

 私は、くるりと向きを変え、彼に背を向けた。


 こういうのが嫌なんだ。

 気持ちが揺さぶられるような……
 誰かと深入りするのが。
 感情のこコントロールが効かなくなる。


 彼に向けた背中が苦しい……


「帰るぞ!」


 彼の言葉に、素直に振り向けない。

 すると肩に風が当たり、彼が、私の前を歩きだした。


 私は、その背中について歩きだした。
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