背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 そんなこんなで、彼女との同居生活が始まった。


 誰かと暮らすなんて、考えるだけでうんざりしていたのに……
 俺の生活は変わった。


 彼女は知らないかもしれないが、俺は家で仕事をする事が多く数日に一度会社に行く程度だ。
 今までは、仕事に合わせ寝起きをしていたのに、彼女が起きる時間に合わせ目を覚ます。そして彼が作る朝食を一緒に済ませる。


 彼女が会社に向かった事を確認すると、部屋の中を見回した。

 洗い物が中途半端であったり、タオルや上着が椅子に置かれたままの時もある。
 でも洗濯物だけは、いつも綺麗に干してある。
 
 いつの間にか彼女が家を出た後、部屋の片づけをするのが習慣になってしまった。



 彼女の部屋のドアの隙間から、広がったままのスーツケースが見える。洋服を探った後のようだ。


 俺は彼女の部屋を開けると、スーツケースの上に積み重なった洋服を手にし、クローゼットに入れはじめた。

 ああ、また怒るだろうな……
 まあいい……


 スーツケースが、彼女がこのマンションを出て行く事を表しているようで嫌だった。
 空になったスーツケースを閉じると、部屋の片隅に追いやった。



 勿論、約束通り彼女に手は出していない。
 彼女にそういう話をする事もないし、雰囲気にもならない。

 俺自身、彼女がオッケーしてくれるとしたら、それがどういう事なのかと考えていた。
 そして、その先はどうなっていくのか?

 今までの俺みたいに、割り切った付き合いなど出来るのだろうか?

 だからと言って、気持ちという物を表に出してしまっていいものだろうか? 
 俺は、自分の気持ちも彼女の気持ちも、きちんと考えていく事が出来る人間なのだろうか?

 いつか崩れてしまうのではという怖さが、俺を不安にさせていた。


 そして、俺を不安にさせている事がもう一つあった。
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