背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
見えてくるもの…… 美月

「湯之原さん?」

 午後の役員会の資料が足りず、オフィスの廊下を足早に歩いていた。あれこれ手順を考えていると、後ろから名前を呼ばれ振り向いた。


「島根課長、お疲れ様です」

 私は笑顔を向けて頭を下げたが、正直、今は忙しい。
 仕事の依頼なら後にしてもらいたい。


「変わらず忙しそうだな」

「すみません、バタバタしていて」


「いやいや、いつも落ち着きが合って、さすがだなと思っているよ」


「ありがとうございます。でも、余裕がなくて……」


 島根課長は何か言いたそうに、口をへの字に曲げて私を見た。
 挨拶だけで済みそうにない雰囲気だ。
 仕事の依頼なら後にしてもらおうと思って、口を開きかけたのだが……


「あのさ…… 最近噂に聞くんだけど、湯之原さんキザキの社員と付き合っているって本当?」


「えっ?」


 まさか、課長がそんな事を聞いてくるなんて思っても見なかった。
 課長の目を見たまま止まってしまった。


「あっ。いや、実際どうなのかな?と思って」


「そう言うわけでなはないんですけど……」


 どう答えりゃいいんだ……


「そうか…… じゃあ、俺が湯之原さんを食事に誘ってもオッケーって事?」


 これは、どういう意味の食事なんだ? 
 今までだって誘われているが、秘書と言う立場上お断りしているのだが……
 と言うのは表向きで、正直面倒くさいだけだ……


「そうですね。私、あまり他の部署の方との食事は控えているので……」


「そういう事じゃないんだけどな。一応、デートに誘っているんだけど」


 課長はほんの少し顔を赤らめ、頭に手をやった。


「ええ!!」


 思わず、上ずった声を上げてしまった。

 慌てて回りを見回すと、訝しげにこちらを見ている人達がいた。何でもないように軽く頭を下げ、課長を柱の陰に追いやった。
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