背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
言ってしまった事は、どうにも出来ない。


「はあ? その話、掘り返すの?」


 掘り返すつもりなんてない。だけど、多分、私の中で解決できないままでいる事に、今、気づいた気がする。

 だからって、会社のエレベーターの中で話す事ではない。


「もういいわ! 婚約破棄よ!」


 自分で言っている事に、自分でも分けがわからない。


「ふっ。婚約していたのか?」


 彼が、笑いを含んで言った。

 
「あんたが言ったんでしょ!」

 なんか、調子が狂う。


ピン!
 エレベータが役員フロワーの階で止まった。


「これ、常務に渡しておいて、詳しい事は電話してあるから」


 彼は、私に茶封筒を差し出すと、ロビーのある一階を押した。


「えっ。帰るの?」


 私はエレベーターを降りて彼を見た。


「ああ、忙しいんだろ? また、変なのに捕まるなよ」


 彼がひらひらと手を振ると、エレベーターの扉はしまった。


 あんたが一番変なのにね。
 そう思うと、なんだか可笑しくなってきた。

 私が忙しいと思って気を使ってくれたんだろうか?
 なんで、忙しい事分かったのだろうか?

 本当に、変な人だ。
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