背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「もー。何があったのよ?」

 私もテーブルの上に広がっている、食器やタッパーを片付け始めた。
 いくらなんでもひど過ぎる。さすがの私だって、ここまで散らかさない。
 海外旅行から帰ってきて、まさかこんな大掃除をするとは思わなかった。


「だから、なんでこんな事になったのよ」

 手を動かしながら彼に聞くが、何も返事がない。


「ねえってば!」

 ちょっと大きな声を上げてみた。


「…… と、思って……」


 テキパキと片付ける姿と正反対に、口ははっきりと動かさない。


「何って言ったの?」

 あっという間に部屋は片付き、残すはソファー上の洋服だけだ。


「だから…… 帰って来ないと思ったんだよ……」


「はい?」

 洗った物だと思っていた服は、これから洗うものらしく彼は衣類を抱えていた。


「美月のお父さんから電話があったんだよ。家の改修工事が終わったって。お世話になったって…… 美月の荷物取りに来るっていうから、もう、戻らないと思ったんだよ……」


 そう言った彼は、洗濯物を抱えてバスルームへと向かった。
 私も、彼の後を追ってバスルームに入った。


「それが、どうして、部屋が散らかる事につながるのよ」


 洗濯機に抱えた服を入れる彼に向かって言った。


「わかんねえよ。お前が帰って来ないと思ったら、何もする気が無くなっちまったんだよ。お前の作った飯食ったら、なんか胸が苦しくなってくるし……」


「毒なんて入れてないわよ」


 彼が、何を言いたいのか分からない。
 苛立ちを押さえきれず、彼の腕を掴んだ。


「お前は、どうして、帰ってきたんだ?」

 始めてみる切なそうな目が私を見ている。


 胸の奥がキュンと苦しくなった。
 何故帰ってきたのか?


「…… 帰ってきたかったからよ……」
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