背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 彼女の父からだ……
 当然、今まで彼女の父から電話など来た事がない。見合いの時、仕事の話もしたいと、連絡先を交換したままだ。

「もしもし」

『湯之原だが、悠麻くんか?』

「はい」

『美月に電話したんだが、繋がらないんだよ。今一緒に居るかな?』


 両親に海外旅行に行く事を言ってなかったのか? 全く……


「あっ。今夜、友達とグアムに旅行に行くと、出かけましたが……」

『何っ? 全く、勝手な奴だな』

 勝手はあんた達だろうと、突っ込みたくなる。


「どうかされましたか?」

「ああ。工事が早く終わってな。明日から自宅が使えそうなんだよ。悠麻くんには無理をお願いして済まなかったね。美月には、戻ってくる頃に伝えるよ」


「あっ…… 彼女の荷物がまだ残ってますけど……」


 俺は、何を言おうとしたのだろうか?
 しかし、彼女の父は、俺の脳裏など知る由もなく、あっさりと言ったのだ。


『大丈夫だよ。近いうちに、私が取りに行かせてもらうよ。どっちにしても、車でないと大変だろうから。世話になったね。また、お礼させてもらうよ』


「いえ……」


 何か言わなきゃと思うのに、電話は切れてしまった。

 彼女は帰って来ない……と言う事なのだろうか……


 そのまま、また、ストンと椅子に座り落ちた。
 もう、片付けなどする気になれなくなっていた。

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