背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「お料理はいかがですか?  美月さんは、何がお好きですか?」


 目を向けた先には、愛想笑いとしか思えない顔が、こちらを見ている。

「ええ。大変おいしく頂いております。私にはちょっと量が多いかしら? そうですね、新鮮なお野菜を使ったサラダやマリネが好きです」


 私も負けじと、得意な笑顔を送り返した。

 

「本当にお綺麗な方だ。美月さんは秘書課の課長をされているそうで。きめ細やかな配慮が出来るのでしょう?」

 彼の父まで反応してきた。


「いいえ。毎日、ただただ追われているだけでして……」


 首を横に振りながら、彼の父に目を向けて微笑んだ。
 仕事で身に着けた素振りでやり過ごす。


「美月さんは、お料理が得意とお聞きしましたけど、お得意の料理は何かしら?」

 あ…… 母親まで加わってきてしまったわ。


「そうですね…… お魚料理に最近は凝っております」

 酒のつまみですけどね……


「おお、素晴らしい。綺麗な上にお料理も得意とは。悠麻の理想にピッタリじゃないじゃないか? あはははっ」


 彼の父の言葉に、彼は、否定も肯定もせず笑顔だけを見せた。


「悠麻くんは、お酒の方は飲めるのかね?」


 父が、やっと彼の方へ話を振ってくれ、ほっと息をついた。


「ええ、仕事の付き合い程度ですが、嫌いではないです」


「美月さんは、お酒は飲めるのかね?」


 彼の父が、又、私に話を振ってきた。
 もう、私の事はいいよ……


 はい、好きです!と、答えそうになる前にママが口を開いた。


「私も娘も、飲めないんです。すぐに回ってしまって……」


 ママは、恥ずかしそうにハンカチで口を押えた。


 嘘つけ! 毎晩飲んでるだろうが!
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