背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 その音に彼が我に返ったように、がばっと顔を上げた。


「あっ、すまん…… 腹減ってたのか?」


 えっ? 
 謝るとこ、そこ?


「あ…… 帯がキツクて、お昼あまり食べられなかったから……」


 私も、そんな言い訳している場合ではないのだが……


 裸が恥ずかしいのか? お腹の虫が恥ずかしいのか?
 なんだかもう分からない。


 ただ、体が熱く火照ったまま、何か物足りなさを感じている。


 私が茫然と横になったままでいると、

 「ルームサービス頼んでおくから、風呂に入ってこいよ」

 彼は、何事もなかったように言った。



 私は、横たわっていた身体を起こした。
 広がった着物の上に……



 すると、慌てて彼が私にバスローブをかぶせた。


 自分の姿が、どうなっているのか、さっぱり分からない……



 ルームサービスを頼もうと、受話器へ伸ばした彼の手が目に入った。

「待って!」

 私は焦って声を上げてしまった。



「ど、どうした?」

 彼が驚いた顔をして、私の方を見た。



「メニュー私に選ばせて…… 食べたいものばかり、メニューにあったの……」

 私の声は、小さくなっていく……



「あ、ああ……」


 彼は、素直に受話器を置いてくれた。

 「分かったから、早く風呂行ってこいよ」


 「あ…… うん……」



  私はバスローブで体を包み、急いでバスルームへと向かった。



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