背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
しばらくすると……


 ピンポーン
 ドアベルが鳴った。


 よく分からないが、数人のスタッフが入って来て、段取り良くテーブルをセッティングしていく。


 「お食事に合うワインも用意させて頂きました」

 ワインクーラーに、赤と白のワインが用意されていた。


 「クリーニングはチェックアウトに間に合うようお届けいたします」


 そう言ったルーム係らしき人の手に、私の着物と彼のスーツやシャツが抱えられていた。
チラリとだが、彼の下着も見えた。


 聞きたい事はたくさんあるのに、スタッフの動きを見ている事しか出来なかった。

 そして、皆すっと消えた。


 ……




 こんな豪華な部屋で、豪華なルームサービスを頼み、男女二人がバスローブ姿。
 誰もがうらやむ光景なのかもしれない。


 だが、私達は部屋に閉じ込められ、服まで剥ぎ取られてしまった。

 私の身を隠すものは、このバスローブだけとなった。
 彼も同じだ……



「食べましょうか?」


 あまりの衝撃に正直、他の言葉が見つからなかった。
 何と言うのが正しいのかなんて分かるわけもなない……


「ああ…… そうだな……」

 彼も、半分ぼーっとしたまま答えた。



 私達は、豪華な部屋の、素晴らしく並ぶ食事を前に、バスローブ姿で向かい合って座った。
 この場面だけを見れば、人が羨むようなひと時に映るかもしれない……



 だが、私達は……
 親にはめられ見合いをし、その上、部屋に閉じ込められ、着るものまで奪われた……
 哀れなものだ……
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