背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 アルコールもまわっているのか、ものすごく気分がいい。


「ふっ。えらく大げさだな。あんただって、結構な家柄のお嬢様じゃないのか?」


 彼は、ワインを口に含んだ。


「そうですかね? こういうお部屋に泊まった事もないですし、お料理も家で作る事がおおいですから……」


 うちは確かに、おじい様の代から続く建設会社だ。
 家も、立派な建物だとは思うが……
 一旦家に入れば、父も母も私も、ダラダラと過ごしている。どこか出かけるより、美味しい物を作って、家でゴロゴロTVでも見ている方が楽だ。


「そうなのか…… 本当に料理するんだな」


「当たり前です。料理くらいします!」


 私は、じろりと彼を睨んだ。
 料理をするなど、見合いの席の言葉に過ぎないと思っていたのだろう。

 お腹もいっぱいになってきて、だんだんと、この状況を把握しだした。これから、一体どうすればいいんだろうか?
 さっきの、着物脱がされ事件が浮かんできて、思わず身を縮めた。


「まあいいや。俺は仕事をさせてもらうよ。まだ、早い時間だし、あんたも好きにすればいい」

 彼はそういうと立ち上がり、ソファーの横にあったパソコンのカバンを手に取った。そして、そのまま寝室へと入って行ってしまった。


 おしゃれな時計の針は、まだ午後の五時を少し過ぎたところを指している。早い夕飯を食べてしまい、これからの時間をどう過ごしたらいいのかわからず、食べつくした空のお皿を見つめた。


 間もなくして、また、ドアベルが鳴った。
 私は、まだダイニングで座ったままだ……

 また、数人のスタッフが入ってくると、目の前のテーブルの上を素早く片付け始めた。


「何か、他に必要なものはございますか?」


 品の良い笑顔の女性が、私の目の前で頭を下げた。


 片付けまでしてもらって、頭を下げられなんだか申し訳ない。


「いえ、大丈夫です」

 私も頭を下げる。


「さようでございますか。何かございましたら、何時でもお申し付け下さい」


 彼女はくるりと向きをかえ、背を私に向けて歩きだした。

 その背中に、なんだか心細くなり思わず声をかけてしまった。


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