背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 テラスには、陽気な音楽が響いている。

「おい、何してる!」


 俺は、彼女の手を掴み、彼女の動きを止めた。


 テラスで音楽を聴くのはいい、ビールを飲むのもいい。

 だか、その格好で踊るな!


 彼女は、陽気な音楽に合わせ踊っていたのだ。
 バスローブ姿で、足を上げて。


「えっ。何って? 踊ってるんですけど……」


 彼女は、酔っている頬を赤くして無邪気に言った。


「こんな格好で踊るな、見えるぞ!」


「えっ? だって、ここ最上階でしょ?」


俺は、額に手を当てた。


「周りに、同じようなビルがいくつもあるじゃないか? 他のビルから見えるぞ!」


「ええ? えええええーーーー」


 彼女は、益々顔を赤くし、バスローブの裾を押さえた。


 六時を回ったとは言え、外はまだ明るい。


 俺は、周りのビルに目をやり、誰か見ていなかったかと目を凝らした。
 全く! 
 彼女の身体を誰かが見たかと思うと、心臓が落ち着きなく動きだした。
 なぜ、こんなに苛立つのか、全く分からなかった。


 彼女は、小さくなってソファーに座ったが、陽気な音楽に合わせ、首を動かし出した。


「気を付けろよ!」


 俺は、そう言い放つと、寝室へと戻った。


 三十歳になると言っていたが、あんなに落ち着きのないものなのか? 
 見合いの席では品があって、キャリアウーマンそうな気高いオーラもあったのに。テラスで踊っていた彼女はまるで別人だ。
 いや、ただの酔っぱらいなのか? 
 一体どういう女なんだ?


 俺の目は自然に、窓へと向いてしまう。

 そこには、バスローブ姿でソファーに座る彼女が、缶ビール片手にリズムを刻む姿があった。


 少しづつオレンジ色に染まっていく彼女の横顔を、胸の奥の方で綺麗だと呟いていた。
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