背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「ああ、悪かったよ。俺の理性のなさだ……」


 悪かった?
 理性のなさ?
 彼に謝られた瞬間、何かが私の中でブチっと切れた。


「そうよ! あなたのせいよ! 見合い断るつもりでいながら、あんな事するなんて!」


 私は、彼をギッと睨んだ。


「仕方ないだろ? ほとんど裸の女と二人でいたら、我慢なんてできねぇよ!」


「はあ? じゃあ、裸の女なら、誰でも構わず手を出すって事!」


「そういう事じゃない! だけど、状況っていうのもあるだろ? だいたい、着物を脱がせたのはあんだろ?」


「ええっ? 私のせいって事?」

 
確かに着物を脱がせる事態にしたのは私かもしれないが、だからって、やっていい事と悪い事がある。

色々思い出してきて、熱くなった顔を必死で抑えた。

「そんな事言ってないだろ? だから、俺だって謝った。でも…… 美月だって、けっこういい感じだったぞ…… やべっ……」


 バッコーンッ


 私は、手にしていた着物用の硬いバッグを、彼の頭に投げた。


「こんな時に、名前で呼ばないで! バカ!」


「バカって事はないだろ? 俺達、大人だろ? 見合いの返事の事は、ゆっくり考えよう?」


 私は、何に苛立っているのだろう?


「別にいいわよ!“予定通りに、断ればいいじゃない!」


 私は、声を上げ、落ちたバッグを拾った。


「おい! 何をそんなに怒っているんだ?」


 彼が、バッグを持つ私の腕を掴んだ。


「何も怒ってないわよ! 大人なんだから! でも、あなたの身体の付き合いの一人になるのはごめんよ! 見合いは断って下さい。もう、会いたくない!」


 私は、何を言っているのだろう?


 何故か分からないが、頬につーっと何かが伝わって落ちた。
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