背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
「出しゃばりまして、申し訳ありません」

 私は頭を下げた。


「こっちは、常務と話がしたいんだ」


 なんだか、課長に合わせるのも馬鹿バカしくなってきた。


 だが、露骨に態度に出す事も出来ない。
 彼らに取っての選択は、課長をまず説得させる事しかないはずなのに、この態度は、私をなめていると言う事だ。
 私を困らせ、もっと上の人間を呼び出そうとしているのだ。


 こっちが困った顔をすれば、相手の思う壺になってしまう。

 姿勢を正し、もう一度彼らにチャンスを与える。

 

「課長とのアポをとる事も可能ですが

「チッ」

 げっ。舌打ちしやがった。

 この男、常務の前ではへコへコしていたくせに。


 すると、さっきからずっと隣りに立っていた男性が、深々と頭を下げた。


「大変失礼いたしました。常務がお忙しいのは存じております。お会いして頂けないのも、先日、私どもに失礼があったのではと、心配しておりましが、そのようですね?」


「ぶ、部長!」

 急に、さっきまで偉そうだった男の顔が青くなった。


 部長と呼ばれた男の方が、明らかに若い。


「申し訳ありませんが、私は存じておりません」


 笑みを見せ、軽く頭を下げた。


 部長と呼ばれた男は、私に向かってもう一度頭を下げた。


「申し訳ありませんが、島根課長とのお約束を取り次いで頂けないでしょうか? もう一度、出直させて頂きますので、明日以降で結構です」


「えっ? 今日でなくてよいのですか?」


「はい。こちらこそ、ご無礼を致しました。改めてご挨拶させていただきます」


「かしこまりました。課長の予定を確認させて頂きます」


 課長に内線をしようと受付に向かうと、島根課長がこちらにやってくる姿が見えた。


 私は、小走りで課長の元に向かい、事情を説明した。

 箕輪商事の二人は、丁重に頭を下げ、課長との約束を交わした。
 私は課長と並び、箕輪商事を見送った。
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