約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
どうやら一度請け負った依頼だと判断したようだ。責任を持って資料を届けると申し出てくれた愛梨に『いいの?』と訊ねると、こくんと頷いてくれる。それは願ってもない僥倖だ。
「仕様書の翻訳もするの?」
愛梨が首を傾げて訊ねてくる。一緒に出掛けてプライベートの時間を共有したことで、少し昔のような打ち解けた様子を見せてくれるようになった気がする。
「そう。口頭で通訳もするけど、資料は事前に翻訳が必要だから」
「へえぇ…。ユキ、すごいね」
それにちゃんと『ユキ』と呼んでくれる。また名字で呼ばれたりしたら苛立ちを隠せない気がしたが、逆に昔と同じ呼び名で呼ばれるだけで随分気持ちが違う。愛梨が自分を受け入れてくれるように感じられる。
「愛梨は残業?」
「うん。明日の会議で使う資料を、最終チェックしてるの」
「まだ結構かかる?」
「あと少しで帰るよ。お腹空いたし」
「そっか。あんまり無理しないようにな」
そう告げると『うん』と言って笑顔を向けられた。優しい笑顔から名残惜しい気持ちで離れると、踵を返してフロアを出る。
エレベーターを使って急いで通訳室へ戻ると、パソコンの電源を落とし、さっさと部屋を出る。そして与えられた鍵を使って戸締りを確認し、急いでマーケティング部に戻った。
だって愛梨。
今なら絶対油断してるから。
「って、ユキ……?」
「愛梨が終わるまで待ってようと思って」
「えー!?」
ほら、やっぱりな。