約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「一緒に晩ごはん食べに行こう」
「え、えっと…?」
分厚いリングファイルを膝の上に置いて、右手にマウスを握ったまま固まる愛梨と、見つめ合う。愛梨には以前『困らせない』と言ったが、このぐらいなら許容範囲だろう……と思っていたのに。
「うーん、ちょっと弘翔に聞いていい?」
「また『弘翔』? 別にいいだろ、ご飯ぐらい」
そのぐらい自分で決めればいいと思う。というか、わざわざ許可を取る程のものでもないだろう。
また彼氏と仲が良い姿を見せつけられているような気分になる。その一方で、案外意思の疎通がとれていない印象も受ける。こういう状況の時、彼氏がOKと判断するかNGと判断するのか、何年も付き合っていれば分かりそうな気がするけれど。
「で、でも…」
困惑した愛梨の視線が空中を彷徨う。
「ユキは、恋人が自分に内緒で他の男の人とご飯食べに行ったら、嫌じゃない?」
「……そう言われると困るな」
「そうでしょ」
冷静に言われて、納得する。今、雪哉は愛梨を手に入れるために画策している立場だから『ご飯ぐらい』と簡単な気持ちで言えてしまう。
けれど、いつか愛梨が恋人になったとき、自分に黙って他の男と食事に出掛けたりなんかしたら。絶対に食事だけだと分かっていても、相当腹が立つに決まっている。
愛梨の瞳が懇願するように『だから、諦めて』と訴えてくる。正義感が強くて義理堅いところは、何も変わっていない。愛梨のこういうところを好いているし、その美点を自分のつまらない欲で染めたくはない。
「じゃあ、今日は諦めるよ」
あくまで今日のところは、愛梨の気持ちを尊重する事で落ち着く。