約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 やれやれと思いながら愛梨の隣のデスクからワークチェアを引くと、そこにそっと腰掛けた。

「って、何で隣に座るの!? ユキ、言葉と行動一致してないよ!?」

 その動作を見ていた愛梨が、驚いたような声を上げて抗議してきた。あまりに必死な顔に、思わず笑ってしまう。

「彼氏に黙って愛梨と食事に行くのを諦めただけだよ。愛梨の仕事が終わるまで、顔を眺めるぐらいは許して欲しいな」

 どこの誰のものか知らないデスクの上に頬杖をつきながら呟くと、愛梨がぽかんと絶句した。

 数秒間、何か言いたそうにじっと顔を見つめられたが、結局文句の言葉は思いつかなかったようだ。まるで主人に置いていかれた子犬のように、シュンとした表情で作業に戻っていく。

「ユキ、お腹空かないの?」

 しょんぼりと背中を丸めた愛梨が、カチカチとマウスを鳴らしながら声だけで訊ねてくる。一応目の前の画面を注視してはいるが、あまり集中できていないようだ。視線が色々なところへ動いているのがわかる。

「どうだろう。さっきまで空腹だったけど、今はあんまり空いてないかな」

 本当はお腹は減っていると思うが、あまり気にならない。それよりも愛梨の子犬みたいな行動や表情を見ている時間が愛おしくて、楽しくて。

「見られてると仕事しにくいんだけど…」
「それでいいよ。ゆっくりやってくれた方が愛梨と一緒にいる時間が増えて、俺は嬉しいから」
「……」

 8割は本気だが、あまり言い過ぎると怒られそうだったので、あえて2割ほど軽さを含ませた口調で呟く。だが本気とからかいの分量をミスしたようで、返答を聞いた愛梨はそっと赤面した。
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