約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「自分で生活するようになったらシャンプー代がもったいなくて、結局ずっとショートで落ち着いてるんだ」
「あはは。なんだそりゃ」
それは半分、嘘。
愛梨がショートヘアにこだわる本当の理由は、髪形が変わってしまったら、日本に戻ってきた雪哉が愛梨の事を見つけられないと思っていたから。
髪形なんて1年も経てば誰でも変化するし、仮に雪哉が愛梨の事を探してくれていたとしても、髪の長さを目印にはしないと思う。
けれど初めてロングヘアからショートヘアにばっさりとカットした小学5年生の時に、雪哉が『似合う』と褒めてくれた事をどうしても思い出してしまう。
女性らしいゆるふわの巻き髪にも憧れた。けれどそれ以上に、脳裏を過る幼い雪哉の笑顔に恋い焦がれてしまう。だから美容室のカット台に腰を下ろして鏡の中の美容師と目が合うと、いつも『ばっさりお願いします』と呟いてしまっている。
「慣れると楽だよ。シャンプーとコンディショナー、いつも1プッシュずつだから」
「貧乏性だなぁ」
「そうじゃないよ。シャンプーとコンディショナーが無くなるタイミングが違うのって、ちょっとしたストレスなんだから」
弘翔がどんな洗髪剤を使っているのかは知らないが、愛梨の父はシャンプーとコンディショナーが一緒になったオールインワンタイプのものを使っていた。弘翔もそれと同じなら、2つが別のタイミングで無くなる地味なストレスなどわからないだろう。
「弘翔は長い方が好き?」
「んー? 愛梨が好きな方なら、どっちでもいいよ」
到着したエレベーターに乗りながら訊ねると、弘翔が嬉しそうに微笑んだ。その顔を見ていると、愛梨の方が気恥ずかしくなってくる。照れを隠すため、1度でいい『1F』のボタンを無意味に5回も連打する。
「でも長いのも見てみたいな」
「そう? じゃあ伸ばそうかな」
ほどなくして動き出したエレベーターに揺られながら、愛梨は自分の言葉に自分で頷いた。