約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
3人の通訳たちは、この会社の社員ではない。派遣の通訳にどこまでの権限があるのか、平社員で、しかも関わりのない愛梨には判断することが出来ない。前回資料を借りに来た際に『総務に聞いた』と言っていたので、派遣中の雪哉たちの管轄は総務課にあるのだろうと推察して確認の連絡を入れる。
ほどなくして内線に出た担当者は、会社の機密情報に対する認識が甘すぎるのではないかと思うほど簡単にGOサインを出してきた。一応プロジェクトチームの責任者の名前も教えてくれたが、雪哉には今後はそちらと直接やりとりしてもらい、愛梨には関わらないでもらおうと今決めた。だから責任者の名前は、愛梨には必要がない情報だ。
「課長。資料室に行ってきてもいいですか?」
電話を切って上司に状況を報告すると、デスクから顔を上げた美魔女がにこりと微笑む。40代半ばを過ぎてもなお、美しく完璧なプロポーションを保ち続けるマーケティング部市場調査課長、崎本 実緒。
彼女が視線の動きだけで、愛梨の意識をワークテーブル上に誘導する。
「それなら、ついでにそれも戻してきてくれるかしら?」
上司にも資料の運搬を追加依頼されてしまい、はぁ、と気が抜けた返事が出た。
数日前からずっと放置され、いつか誰かが戻すだろうとみんなで牽制し合っていた3冊の分厚いリングファイル。馬鹿な探り合いなどしていないで暇な人が行けばいいのに。結局誰も手を付けていなかったミッションは、愛梨が担うことになってしまう。
「持つよ、愛梨」
「えっ、でも……」
「愛梨には愛梨の仕事があるのに、邪魔してるから。このぐらいはさせて」