約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 逃げ道を失い涙目のまま睨むと、雪哉にあっさりと肯定されてしまった。

 突然だったとはいえ、弘翔を裏切るような行為を許容してしまい自分で自分が許せない。なのに。

「でも、そのぐらいで丁度いい」

 雪哉は、その方がいい、と悪魔のような台詞を何でもない風に口にする。あまりに傍若無人な発言に驚いて雪哉を睨むと、彼はふっと笑みを浮かべた。

「傷付けると思って言わなかったけど、愛梨は俺との約束破ってるんだよ。俺を待ってるって約束したのに、彼氏なんか作ってた」

 雪哉の静かな怒りが、淡々とした口調の中に混ぜられている。怒りと悲しみが不明瞭になった複雑な感情をぶつけられれば、愛梨のショックと悲しみは少しだけ薄められ、口を噤むしかなくなってしまう。

 それでも、雪哉の非議は終わらない。

「幼稚園の時に約束は破っちゃダメだって先生に教えられただろ。愛梨はちゃんと知ってたはずだ。約束を破ったら、罰を受ける事ぐらい」

 確かに、約束を破ってはいけないと教えられた。そして約束を破ると何らかの罰を受ける事も、知っていた。

 懐かしい幼少期の『よい子のきまり』を目の前にぶら下げられて、胸の奥で羞恥心と罪悪感が混ざり合い、複雑な模様を作っていく。

「だからちゃんと罰を受けて。俺との約束を破った罰。すぐに別れてくれたら許したのに、まだ俺より彼氏を優先してる罰」

 複雑な感情の模様の中に、毒物のような苦しみが混ざって溶け出し始める。地を這うような低い声で愛梨を責める雪哉が、一切間違ったことを言っていないように思えてくる。

 けれど。そうだとしても。
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