約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 雪哉との約束を破った罰は、溶けそうな程に熱くて激しいキスだった。それなら弘翔との約束を破った罰は――『別れ』だったらどうしよう。考えるだけでクラクラと眩暈がしてしまう。

「弘翔、今日一緒に寝てもいい?」
「え!? 折角、布団敷いたのに!?」

 弘翔が焦ったような声を上げる。
 付き合い始めて約2か月。お互いの家を行き来したり、泊まることはある。けれど弘翔の部屋には予備用の布団があり、愛梨が泊まるときはいつもその布団を敷いて別々に寝るので、未だ一緒の布団で寝た事はない。だから弘翔が驚くのも、十分に分かる。

「だって、……ゾンビ怖いから」

 一応それっぽい言い訳を付け加える。本当は映画のシーンなんてほとんど覚えていないので、ゾンビに対する恐怖心はない。けれど弘翔と物理的に距離を置くとそれだけで全てを失ってしまいそうなことの方が、今は怖かった。

「いい、けど」

 そんな感情を知る由もない弘翔は、少し挙動不審に頬を掻きながらも愛梨の要望を了承してくれた。

 部屋の明かりを落とすと、一緒に弘翔の布団に入る。そっと触れ合って目を閉じたら、夢の中には雪哉もゾンビも出てこないような気がした。

「愛梨……」

 弘翔の腕に身体を抱き寄せられ、ぎゅうと抱きしめられる。洗濯をしたばかりのTシャツからは、去年発売された自社の柔軟剤の香りがしたが、その奥に弘翔自身の香りを感じる。

 頬をすり寄せ、すう、と息を吸い込む。雪哉とは違う、安心できる香り。

(……比べて、どうするの)

 折角忘れていたのに、再び雪哉の顔が思い浮かんでしまって焦る。ふるふると首を振ると、腕の中で動いたことに気付いたのか、半身を起こした弘翔にじっと目を見つめられてしまった。
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