約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
誰かと同じ布団に寝ることなど滅多にないので、どうにも勝手がわからない。あんまり寝相良くないんだけど、これは大人しくしていないとだめかなぁ……と思っていると、近付いた弘翔の唇がそっと額に寄せられた。
「んっ」
そのくすぐったさに、思わず小さな声が漏れる。離れた弘翔に更に見つめられて少し照れたが、唇を重ねられることは嫌ではなかった。
「っふ……、ひろ…」
優しいキスがもう少しだけ欲しくて、でもそんなことを自分から強請ることは出来なくて、声にならない感情が吐息になって零れる。もう1度、ちゅ、と可愛い口付けを交わしても、何故かまだ満たされない。
「っと、これ以上はダメだな」
察した弘翔が離れようとしたので、不安を拭えないまま宵を越すことに嫌な焦りを覚えてしまう。大事な恋人を何に利用しようとしているのか、と自分の分身が呆れた声をあげる。けれど離れそうになった弘翔のシャツを掴む指先と
「だ……ダメじゃないよ」
なんて声が滑り出てしまうのは、自分自身では止められなかった。
「え。どうしたの、愛梨」
流石に驚いた様子の弘翔が、顔を上げる。
驚いても仕方がない。27歳の良い大人同士でありながらここまで何もない清らかな関係だったのに、その均衡を崩そうとしているのが、他でもない愛梨なのだから。
「あんなに嫌がってたじゃん」
「い、嫌がってたわけじゃなくて。その、怖かった、だけで……」
驚いた弘翔に確認され、つい口籠る。それは嘘ではない。大学時代の友人にも、玲子にも『最初は絶対痛い』と散々脅されてからかわれているのだから、恐怖心がないわけではない。
けれどその恐怖心を押し退けてでも、雪哉とのキスを上書きしようとしている。そんな自分が、ずるくて卑怯だと言う事には、気付いている。
「いいのか? 本当に?」
「……うん」
確認されたので、そっと頷く。弘翔はいつものように優しい声で、あとで後悔するんじゃない? と問いかけてくるけれど。後悔なんかしない。愛梨が好きなのは、弘翔だから。
(ユキじゃ、なくて)