約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
拒否の言葉が冷たいとは、自分でも気付いていた。自分の事を好きだと言ってくれた相手に対して、あまりに一方的で冷酷すぎる。ストレートな言葉を吐くのは心が痛むし、それが雪哉を傷付けていることは承知している。
けれど止めなかった。弘翔を傷付けたくないから。自分の矛盾にも気付きたくないから。これ以上関わるのは止めて欲しい、と願いを込めたのに。
「愛梨は嘘が下手だな」
傷付けてしまったと思ったが、雪哉はすぐにそんな言葉を返してきた。
「俺に諦めさせようと思って、わざと冷たい事言ってる」
「……そんなことないけど」
「そうだよ。だって愛梨、全然俺の方見ない」
そこまで言われてようやく、今日は1度も目を合わせていないことに気付く。
つい身体がびくっと跳ねたが、指摘されても未だ雪哉の顔は見れない。雪哉が怒っているのか、悲しんでいるのか、知りたくない。けれどそれ以上に、一方的に雪哉を傷付けている筈の自分が苦悶の表情を浮かべている事を、知られたくない。
眉間に皺が寄っていることには気付いている。酷い言葉を連ねているのは愛梨の方なのに、その言葉に自分自身で傷付いている事など知られたくない。
「こっち見て」
資料を手渡しで受け取るために近くまで寄っていた雪哉に、突然腕を掴まれた。愛梨の手から書類を奪い取った雪哉が、円卓の空いているスペースにファイルごとを放り投げる。中に入っていたUSBメモリがコンと小さな音を立てたが、今はそんな事などどうでもいいと言うように。
「俺の目を見て言って、愛梨」
もう1度こっちを向いて『連絡してこないで』『不快な思いをさせる』と、酷い言葉でちゃんと言ってみて。そう言われているようで、つい言葉に詰まる。
「この前キスしたこと、怒ってる?」
「当り前でしょ…!」
思い出したように、意地悪く笑うように言われて、思わず雪哉の目を見て怒る。