約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
当り前だ。強引に浮気をさせられ、秘密を作らされた。だから金曜の夜から日曜の昼まで弘翔と一緒に居ても、全然落ち着けなかったし、何も楽しくなかった。
雪哉からメッセージが来たのは1回だけだったが、既読無視してしまったことが逆に不安になった。けれど弘翔の目の前で返事をすることも出来ず、結局雪哉のことばかり考えてしまっていた。
あんなことがなければ、もっと楽しい週末だったはずなのに。
「そう、それならよかった」
「!?」
いろいろな感情を全て凝縮して『怒って当たり前』と伝えたのに、それでも雪哉は笑顔のままだ。
ふざけて言っているわけではないのに一切動じない雪哉に、自分の方がおかしなことを言っている気分になる。掴まれた腕に込めた力が少しだけ緩んだが、その手が解放されることはない。
「意識されてるって事だ」
「は!? 何言っ……」
「愛梨が俺を『男』だって気付き始めたんだ。俺と大人の関係になれるって、愛梨の心と身体が理解し始めた証拠」
雪哉の声が一段と低くなる。けれどそれは怒りの感情などではなく、色と艶と、恋焦がれる感情。
腕から離れた雪哉の手は、服の上からするすると愛梨の腕のラインを辿り、ゆっくりと肩の上を通過して、やがて首元に辿り着く。指先で首を撫でる動きが妙にいらやしくて、そこから逃れようと身を捩る。
「ちょ、ユキ……!」
「あと何回キスしたら、俺の事だけ考えてくれるようになる?」
まるで早くそうなって欲しいとでも言いたげな、甘美な視線。黒い子猫のような昔の愛らしさは消え去り、狙いを定めた黒ヒョウのように艶やかで鋭い眼差し。
資料室でキスされた時と同じように、雪哉の長い指先が愛梨の身体を掴まえて捉える。恋慕の深淵に誘うようにじっと見つめられると、金縛りに遭ったように動けなくなってしまう。
「好きだ。――愛梨が欲しくて、たまらない」
雪哉の顔の位置が下がる。またキスされてしまう、と気付くと焦りと緊張感が金縛りの効力を更に強める。