約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
簡単に拒絶出来るはずの腕を振り解けない。だから自分でも困っているのか、望んでいるのかわからなくなってきてしまう。
どうしよう――と思った瞬間。
ガチャ。と背後でドアが開く音がした。
「!!」
音に驚いて咄嗟に離れようとした。けれど雪哉に身体を固定されていた所為で、思ったより距離は取れなかった。
ノックをせずに通訳室に入って来る人など、雪哉以外には2人しかいない。雪哉と同じ派遣会社から依頼されて来ている通訳の澤村 浩一郎と。
細木 友理香。
「雪哉? ……愛梨?」
至近距離のまま動きを止めている愛梨と雪哉の様子に気付き、入室してきた友理香が不思議そうな声を上げた。数秒遅れ、友理香の顔が動揺と不快感を示す。
「何、してるの…?」
「別に何も」
顔を歪ませた友理香の詰問を、雪哉がさらりと受け流す。その声にはあまり感情がない。そこはもっと焦るところでしょ、と愛梨の方が焦ってしまうのに。
「雪哉…! 今度は愛梨なの…!?」
雪哉よりも、友理香の方が余程焦ったような声を出した。一瞬だけ愛梨の顔をちらりと見たが、完璧なアイラインと上品なアイシャドウに彩られた綺麗な瞳は、すぐに雪哉の顔へ向き直る。
「やっぱりクライアントの社員を誘ってるって噂、本当なんだ…!?」
「いや、そんなこと1度もしたことない。本当に違うから、その言い方止め……」
「違わないでしょ!? 仕事でそんなに距離近いなんて、絶対変だよ…!?」
興奮したように詰め寄る友理香とは対照的に、雪哉はやや辟易したように溜息を洩らした。わざと友理香の神経を逆撫でするような態度をとる必要はないのに、何故か雪哉の態度は大人げない。
周囲の温度を下げるほどに冷めた雪哉の態度と、逆に温度を上げるほどに熱い友理香の気配を感じ取ると、反射的に愛梨の方が声を出してしまった。
「友理香ちゃん。本当に何もないから」