約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

彼女の嫉妬


 *-----*-----*-----*


 女子3人でランチを済ませて廊下を歩いていた時、不意に友理香と2人になるタイミングが出来た。スマートフォンに夫から電話がかかってきたのを知ると、玲子は2人から離れた場所で通話を始める。

 玲子を待っている間、友理香との間には沈黙が下りた。

「友理香ちゃん。この前の事なんだけど」
「……何?」

 愛梨の方から話を切り出されるとは思っていなかったのか、友理香に怪訝な顔を向けられた。『この前』というワードから話の内容を察したのか、愛らしい唇からは似つかわしくない不機嫌な言葉が漏れる。

 けれど改めて否定しておかなければならない。愛梨が雪哉に対して特別な感情を持っていると、友理香に勘違いされたままにはしたくない。それに今なら、以前は伝え損ねた雪哉との関係も、自分が雪哉の想いに応えるつもりがない事も伝えられる気がした。

「あの、一昨日の通訳室で…」
「Excuse me,」

 愛梨が話を切り出そうとしたところで、突然後ろから話しかけられた。

 驚いて思わず言葉が途切れる。振り返ると、愛梨の背後には見たことがない外国人の男性が立っていた。

 社員食堂があるこのフロアは、昼休みは常に沢山の人が行き交っている。食堂には様々な部署の人が出入りするし、ビル内の別会社の社員が利用することもあるので、周囲の様子などいちいち認識していなかった。

 知らない人に話しかけられた事にも驚いたが、話しかけてきたのが外国人で、しかも言葉が日本語ではなかったため更に驚いてしまう。綺麗なブロンドの髪とダークブルーの瞳が印象的な40代半ば頃と思わしき気品のある男性が、少し困ったように首を傾げている。

「Where is the toilet on this floor?」

 早口で何かを問い掛けられた。
 えっ、えっ?と困惑しながら顔を上げると、男性の視線が友理香に向けられていることに気付く。どうやら彼は、友理香と面識があるらしい。
< 136 / 222 >

この作品をシェア

pagetop