約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「The toilet on the upper floor is being cleaned and cannot be used.」
「……」
けれど友理香は、顔を背けたまま男性と視線を合わせようとしなかった。何故か黙ったまま斜め下に俯いて、口も開かず目線も合わせず、まるで無視するように意識を逸らしている。
(えええ、友理香ちゃん!?)
その態度に愛梨は困惑するしかない。相手は明らかに友理香を認識して話しかけているのに、彼女がそれを無視しているのだから。
「……ゆ、友理香ちゃん…?」
もしかして、何か嫌な言葉を言われているのだろうか? 前に言っていたセクハラのような発言をされているのだろうか? と一瞬考えてしまう。
だが男性は1度不思議そうに首を傾げた後、その視線を愛梨へ向けてきた。
「Please tell me the location of the men's toilet.」
何かを話しかけられて、思わず顔が強張る。英語が話せて面識がある友理香がいるなら、初対面の自分に話しかけてくるなど露ほども思っていなかった。
「ええと…。あの……?」
何かを訊ねられていることはわかる。かろうじて最後の「トイレット」は聞き取れたが、他は早口過ぎて何を言っているのかわからない。いや、きっとゆっくり言われてもわからない。顔を上げると男性の首が再び横に傾く。
日本語を話せない人と面と向かい合うことがないので正確な判断は出来ないが、恐らく彼は友理香にハラスメント発言をした訳ではないと感じる。紳士らしく背筋を伸ばして2人を見据える視線からは、男性が女性に向ける特有のいやらしさは感じない。
愛梨よりかなり年上であると思われる男性は、純粋に困ったような顔をしている。ように見える。だが困っているのは愛梨も一緒だ。
(ど、どうしよう…!?)