約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
恐らく雪哉も昼食を食べにこの階に来たのだと思われる。けれど怒りをにじませた雪哉は、友理香を連れて再びエレベーターに乗り込んでしまう。雪哉と友理香の様子から嫌な予感を感じて『ちょっと待って』と声を掛けたが、エレベーターの扉はそのまま閉じてまってしまった。
これは……。愛梨は英語が話せないので助かったけれど、友理香はまずい状況かもしれない。
「ごめんね、哲治がキッチンペーパーの場所がわからないって……ん、どうしたの?」
ようやく戻って来た玲子の声が耳に届く。玲子は今まで一緒にいたはずだった友理香がいない事に気付いて、首を傾げた。玲子のその様子をみて、愛梨もすっと冷静さを取り戻した。
「玲子、ごめん。先に戻ってて」
早口で告げると、玲子が不思議そうな顔をしながらも『わかった』と呟く。愛梨はそんな玲子をその場に置いて、エレベーターと反対にある階段への扉を押し開けた。
通訳室はここから2階上。エレベーターの到着には間に合わないが、2人が室内に入ってしまうまでには、まだ間に合う。1度だけ息を吐くと、そのまま一気に階段を駆け上がる。
(ユキ、それ誤解じゃないけど誤解だよ)
自分でも何を言っているのかよくわからない。父の言う通り本当に日本語すら怪しいんだな、と思ったが、それでもこのまま2人を放置することは出来ない。
3日前は慌てて逃げ出してしまった。けれど友理香の恋心を多少なりとも理解しているつもりの愛梨は、ちょっとした気持ちで愛梨に『悪戯』をしてしまった友理香を放置することはできない。
友理香がこんなことをしてしまった原因は、愛梨にもあるから。