約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 通訳の仕事をして20年目になる浩一郎は、随分簡単に言ってくれる。だが同時通訳は研修を受けて独学で勉強した程度でいきなり出来るようなものではない。それをちゃんと理解している浩一郎は、零れた笑みを仕舞い込んで急に真面目な顔をした。

「けど上層部(うえ)は雪哉に期待してんだよ。だから4年目で専任やれなんて、普通なら言われない難題押し付けられてるんだからな?」

 その言葉に唸りながらも頷く。
 もちろんさらに上の研修を受けてステップアップしたい気持ちもある。だが浩一郎の言うように上層部が現場での人手を欲している事も、現場を回せる人間を育成したい事も知っていた。

 それには通訳としての知識や経験も大事だが、同じ派遣通訳者たちをコントロールする技術も必要だ。今回のようなトラブルに対処して、上手く収束させる技術が。

「友理香ぐらいの年齢なんて、どうせ人の言う事なんか聞きやしないんだから。そういう奴を上手に動かすスキルを身に着けるなら、友理香はいい練習台だと思うけどなー」
「またそんな他人事みたいに……」

 規模が大きくなり同時に派遣される通訳の人数が増えれば増えるほど、現場を仕切って上手く立ち回る難易度は上がる。だからSUI-LENの会社の規模や、友理香のような扱いにくい後輩を上手く動かす経験が出来るなら、確かに今回の件は丁度良い例なのかもしれない。浩一郎の言う『経験して損はない』の意味を察する。

「というワケで、今回の件を報告するかしないかは、雪哉に一任する」

 そしてそう結論付ける。キャラメルラテと書かれたチルドカップの中身を啜った浩一郎の顔を見て、雪哉は再び息を吐いた。
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