約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
予想していた通り、愛梨は中々手強い。認めてしまったら全てが崩れると思っているらしく、どんな言葉を囁いても彼女は絶対に首を縦に振らない。
流石に『連絡してこないで』と言われた事は堪えた。しかしそれが愛梨なりの防衛反応だと気付くと、むしろ雪哉がかけた魔法が徐々に効力を発揮している反動にさえ思えた。
確実に『理解し始めている』『覚えてきている』と感じていた。なのに。
「ユキは、昔の約束に囚われてるんだよ」
「……は?」
愛梨がぽつりと呟いた言葉に、思わず間抜けな声が出た。それが『俺の方が、愛梨の事好きなのに』に対する返答だと気付いて、つい顔を顰めてしまう。
「あんな約束なんてしなかったら、ユキはもっと自由に恋愛できたと思うの」
愛梨の台詞から、ざわざわと嫌な胸騒ぎがする。確実に解氷をはじめ、ゆっくりと溶け出し、透明な雫が少しずつ自分の色に染まっていると実感し始めた矢先なのに。
「別に今からでも遅くない。あの約束、もう無効にした方がいいと思――」
「愛梨」
思わず制止する。
その言葉を最後まで言わせてあげられる心の余裕はない。愛梨はまだ、少しずつ雪哉の存在を思い出し、異性として意識し始め、それが恋心と結びつき始めたに過ぎない。まだ自分の想いを認められる段階まで来ていない。
「俺が嫌なら拒絶しても、突き放してもいい。でも約束そのものを無かったことにするのはやめて」
こんな不安定で曖昧な状態で、最初で最後の切り札を破り捨てられる事は許容できない。だからそれだけはさせないと、必死に説得してしまう。
「愛梨と会えなかった15年間、俺を支えたのはあの約束だ。それを取り上げられたら、俺はこの先どうすればいい?」
突然こんなことを言い出したのは、雪哉が愛梨を口説こうと悪戯な台詞を呟いた所為もあると思うが、きっと友理香のためなのだろうと思う。